東京家庭裁判所 昭和41年(家)6125号 審判 1966年9月22日
申立人 ロナルド・ビー・レイノルズ(仮名) 外一名
未成年者 ジョージ・ケイ・レイノルズ(仮名)
主文
(1) 事件本人ジョージ・ケイ・レイノルズの下記財産を管理する後見人として、住所東京都目黒区上目黒三丁目一七〇〇番地弁護士福田彊を選任する。
(2) 上記後見人は、以下の権限を持つものとし、その後見行為を認可する。
事件本人が申立人ロナルド・ビー・レイノルズと共有する、
アメリカ合衆国ハワイ州ハワイ郡プラマおよびボウポウに所在する土地二筆(「ブロツク番号一-B地区番号一九面積約一エーカー」、「ブロツク番号一-B地区番号二〇面積約一エーカー」、ただし譲渡局保管七五二号記録図面記載のとおりで、同図面の記載する道路を他人と共同して通行する権利をふくむ)
をハワイ州ホノルル市ハレカウイラ街に届住するチャールス・マサオ・ヤマグチに譲渡する契約(この代金は、二六七〇、五〇ドルに地方銀行の利息および弁護士費用六〇ドルを加えたものとする)を締結し、これに附随する事項を決定することおよびその契約代金を受領すること。
理由
(1) 申立人ロナルド・ビー・レイノルズは一九三二年六月一七日アメリカ合衆国ミズリー州セントルイス市で生れた合衆国市民で、一九五三年まで同市に居住し、一九五三年から一九五五年まで合衆国陸軍に入隊して日本、および朝鮮に派遣され、除隊後ミズリー州に居住してフリーランス・カメラマン(複数以上の雑誌社または新聞社と契約を結び写真を提供するもので、本人はS・S社その他と特約をしているもの)として、兼ねて在朝鮮米軍人に対するオクラホマ市S生命保険会社のセールスマンとして働き、一九五八年秋極東方面の取材と保険勧誘活動のため来日(旅行手続で入国)し、目下主としてべ卜ナム方面で活動している。(必要の都度旅行手続で日本に滞留する)申立人律子は一九五八年一一月二四日東京で申立人R・B・レイノルズと婚姻して東京都内に居住し(一九六二年三月からは肩書住所に居住)、長女メアリー(一九六一年四月六日生)と長男たる事件本人をもうけて、その手許に養育しているものである。しかして本件申立は、「申立人R・B・レイノルズが将来の別莊を建設する目的で主文第二項掲記の土地を買い入れ、事件本人との共有にしたところ、その土地には一部好ましくない状態にあることが判明したので、売主であつた不動産開発業たるチャールス・エム・ヤマグチに売り戻すことを申し入れ、その契約をしたいため、未成年者の財産の後見人(日本法上は、親権者と未成年者とが利益相反する場合としての特別代理人にあたると考えられる)の選任と後見行為の認可とを求める」というのである。この申立については、事件本人が合衆国市民であつて、その本国法上の住所たるドミサイル(法定住所として、父のドミサイルが本人のドミサイルとなる)は日本にいないけれども、前記のように出生以来東京に居住し、日本人として同所に住所を有する母の手許で教育されて来たものであつて、その居住の場所は日本の法制でいう住所(註、渉外事件の裁判権の有無を判定するのに必要な住所観念については、日本の法制上は、実質法たる準拠法を定める基礎となる場合とは異なり、本国法上のそれによるべきものではなくて、当該法廷地国たる日本の法制上の観念によるべきものと解する)に相当する実質を具えているものということができるから、日本の法制上、日本の裁判所はこれが裁判権(または国際的裁判管轄権)を持つことができるものと解すべきであり、その管轄は当裁判所にあるということができる。
(2) ところで日本の国際私法である「法例」によると、本件申立事項の性質は、「親子間の法律関係」にあたると解せられるので、その準拠法は「父の本国法」となるべきものであり、事件本人の父である、R・B・レイノルズの本国法たる、同申立人のドミサイルのある州(同申立人は申立人律子と日本で婚姻し、申立人律子と二人の子を東京都内に居住させているもので、当裁判所に提出された口供書には「自分は日本の風土環境を愛し、現在の生活場所を日本から他国に移すことはほとんど考えられない。」と記載されてあるが、本人と日本および東京との結びつきの状態は前記一に記載したとおりであつて、この点に関し、「合衆国衝突法のリステイトメント」第二章ドミサイル第二二条動機の条項中の説明として掲げられるところによると、「Aはマサチューセッツのホームを離れて、家族とともに上海に行き、同地で新聞社を手に入れ新聞を発行した。Aは多年の間上海に留まりながら、市の生活と事務とに貢献し、自己の旧いホームには何らの関心のないことを明示した。Aは上海にドミサイルがあるということができる。」とあり、本件における申立人R・B・レイノルズの場合がこれにはほど遠いものであることが明らかであるから、同申立人のドミサイルを東京都内に見出すことは困難であり、そのドミサイルは依然としてミズリー州内ににあるものというべきである。)の法律たるミズリー州の法律によることとなる。
しかして同州の検認法(PROBATE CODE)によると、「父母は未成年の子の自然後見人であり、監護教育の権限を持つ。……未成年者の財産が親に由来する場合には、その親は自然後見人として、自己に由来する財産に関しては、裁判所から任命される後見人のすべての権限を持つ。ただし、その権限を行使するのに裁判所の命令または授権を何ら必要とせず、合理的かつ賢明になされるという特性に従い自然後見人が未成年者の財産を投資し、売却し、再投資することができる場合は、この例外である。」
「未成年者が、現に自然後見人として権限を行つている生存の親に由来しない財産を所有しまたはその他の権利を持つ場合には、裁判所は、その財産の当該部分についての後見人として、第三者を任命しなければならない。」
「自然後見人として権限を行つている生存の親に由来しない未成年者の財産については、後見認可書が与えられなければならない。」
「未成年者の自然後見人がいるが、裁判所が未成年者の最善の利益を考慮して未成年者の全財産に対する後見認可書が必要であると認定しとたきは、認可書が与えられることができる。」とされている。
このように日本の法制では「親子の法律関係」の性質に属する事項であつても、その準拠法たる本国法に照らすと「後見関係」の性質に属するものとなるときは、後者の性質が日本の法制に受け容れ難いものでないかぎり、それにもとづく内容の審判をするのは当然であろう。本件で問題となる未成年者の財産は申立人R・B・レイノルズに由来する財産であるから、一応同申立人がその管理処分をなし得るものとなるが、一般にアメリカ合衆国では、「親が子に属する重要な財産を処分することは子の福祉的見地から親に委ねるのに適しないものとされ、裁判所の選任した後見人にこれを行わせるべきものである。」とされるようであり、ミズリー州の法律は、本件のような場合に裁判所がなお未成年者の最善の利益を図るために必要があるとして第三者を後見人に選任することを妨げるものではないと解せられるところ、本件においてその契約の相手方となるべきチヤールス・エム・ヤマグチからの書信によると、「自分の方で相談した弁護士の言によると、ジヨージが未成年者なので同未成年者のために後見人が任命されることが必要であり、更に裁判所から本件財産を譲渡する権限をその後見人に与えられることが必要である」とのことである。
そこで当裁判所は、本件未成年者の不動産処分を慎重に、かつ、瑕疵なく行うために特に弁護士たる第三者を後見人に選任するのが相当であると認定する。よつて主文記載のとおり後見人を選任し、かつ、後見の認可を与えることとする。
(家事審判官 野本三千雄)